大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 平成7年(オ)672号 判決

上告人

引接寺

右代表者代表役員

戸田弘如

右訴訟代理人弁護士

谷口忠武

下谷靖子

豊田幸宏

被上告人

内田慶子

右訴訟代理人弁護士

太田常晴

被上告人

岩岡義男

石浦福雄

右訴訟代理人弁護士

塚本誠一

金京冨

岩崎文子

主文

原判決中被上告人らに対する土地明渡請求並びに被上告人内田に対する平成二年一二月二九日以降月一五万円の割合による金員の支払請求及び予備的請求に関する部分を破棄する。

前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

上告人のその余の上告を却下する。

前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

一  本件は、第一審判決添付物件目録一ないし五記載の土地(以下「本件土地」といい、同目録記載の土地を同目録記載の番号により「本件土地一」などという。)を被上告人内田に賃貸している上告人が、賃料を月額一五万円に増額する旨の請求をした後に同被上告人が供託し続けた金額(月額二〇〇〇円)は、公租公課の額に満たない低額のものであるから、同被上告人には賃料債務の不履行及び信頼関係を破壊する行為があり、これに基づき賃貸借契約が解除されたと主張して、同被上告人に対しては、同目録六ないし八記載の建物(以下同目録記載の建物を同目録記載の番号により「本件建物六」などという。)及び地上工作物一切を収去して本件土地を明け渡し、右解除前の賃料及び解除から明渡し済みまでの賃料相当損害金を支払うこと、被上告人岩岡に対しては、本件建物七から退去して本件土地四を明け渡すこと、被上告人石浦に対しては、本件建物八から退去して本件土地四を明け渡すことをそれぞれ求めるとともに、被上告人内田に対する予備的請求として本件土地の賃料が月額一五万円であることの確認を求めるものである。

二  原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  上告人は、被上告人内田に対して、本件土地を、堅固でない建物の所有を目的として賃貸している。本件土地一ないし三は上告人の所有であるが、本件土地四及び五は所有者である国から上告人が賃借し、同被上告人に転貸している。同被上告人は、本件土地上に本件建物六及び車庫施設等の工作物を、本件土地四の上に本件建物七及び八を、それぞれ所有している。本件建物七には被上告人岩岡が、本件建物八には被上告人石浦が、それぞれ居住している。被上告人内田は、本件土地の付近等に土地を所有し、その公租公課を負担している。

2  本件土地の賃料は、昭和二六年一月当時年額一四〇円であったが、その後平成二年一月三一日までの間、上告人は、本件土地についての賃料増額請求をしたことがない。

3  上告人は、被上告人内田の夫である内田博(昭和五三年死亡)に対して、昭和二六年一月分以降の賃料の支払を催告の上、同四二年六月二日に本件土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。博は、同四三年一一月ころ、同二六年一月分から同四三年一二月分までの賃料として二八万五三三六円を供託し、その後も賃料の供託を続け、博の死亡後は被上告人内田が供託を続けたが、その供託額は、昭和五〇年六月分からは月額二〇〇〇円、本件解除の意思表示の後である平成四年七月分からは月額三万八〇〇〇円である。

4  被上告人内田は、昭和五八年、上告人のみを相手方として、本件土地一、二及び五につき借地条件を堅固な建物の所有を目的とするよう変更することを求める借地非訟事件の申立てをした。

5  上告人は、昭和六一年、被上告人内田に対して、昭和四二年にされた賃貸借契約解除の意思表示に基づき本件土地の明渡しを求める訴訟を提起した。これにより、借地非訟事件の審理は事実上停止した。

右訴訟の控訴審において、上告人は、上告人が国に支払う本件土地四及び五の賃料額と被上告人内田の供託額のそれぞれ一平方メートル当たりの金額は、前者が後者を大幅に上回ると主張し、これを裏付ける国有財産賃貸借契約書等を証拠として提出した。

右訴訟においては、博が催告に係る支払金額が分からないことも無理からぬものであり上告人による解除権の行使は信義則に反し無効であることを理由として上告人の請求を棄却する旨の判決が言い渡され、右判決は、平成二年一月一六日確定した。

6  上告人は、平成二年一月三一日、被上告人内田に対し、同年二月一日以降の本件土地の賃料を月額一五万円にする旨の請求をした。昭和二六年以降の公租公課の額の著しい上昇などにより平成二年二月一日の時点において本件土地の賃料額は不相当になっており、当時の本件土地の適正な賃料の額は、月額九万円である。

7  被上告人内田は、平成二年二月一日当時、上告人が国に対して支払っている本件土地四及び五の賃料の額と上告人所有の本件土地一ないし三の公租公課の額の合計が、少なくとも同被上告人の当時の供託額である月額二〇〇〇円(年額二万四〇〇〇円)を上回っていることを知っていた。

被上告人内田は、弁護士と相談の上、借地非訟事件で借地条件変更の一環として賃料も解決が図られるのでその結着を待つこととして月額二〇〇〇円の供託を続け、上告人に対しては借地非訟事件の終結まで従前額の供託を続けると回答したが、上告人は、同被上告人に対して右回答に異議がある旨通知した。同被上告人の供託額である月額二〇〇〇円は、同被上告人が主観的に相当と認める額である。

8  上告人は、平成二年三月一五日の借地非訟事件の審尋期日において、被上告人内田が本件土地の借地権を有することを認めていた。借地非訟事件における鑑定委員会は、同年九月一三日、本件土地一、二及び五の借地条件を堅固な建物所有の目的に変更すること、借地条件変更後の賃料は、本件土地一、二及び五について月額一一万〇六〇〇円、本件土地三及び四について月額三万七〇〇〇円に改定することが相当である旨の意見書を提出した。

9  上告人は、平成二年一二月二八日、本件訴状の送達をもって被上告人内田に対して本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。同被上告人は、上告人が本件訴訟を提起したため、同三年二月、借地非訟事件の申立てを取り下げた。

三  原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断して、主位的請求については、賃料支払請求のうち被上告人内田に対して平成二年二月一日から同年一二月二八日まで月九万円の割合による金員の支払を求める部分を認容し、その余の主位的請求を全部棄却すべきものとし、予備的請求については、同被上告人との間で平成二年二月一日以降の本件土地の賃料月額が九万円であることの確認を求める限度で認容し、その余の予備的請求を棄却すべきものとした。

1  本件賃料増額請求は、月額九万円の限度で効力を生じたから、本件土地の賃料は、平成二年二月一日以降月額九万円に増額された。したがって、被上告人内田に対する賃料支払請求は、平成二年二月一日から同年一二月二八日まで月額九万円の割合による支払を求める限度で理由がある。

2  上告人は、博及び被上告人内田に対して平成二年一月まで賃料増額請求をしたことがないし、前訴判決が確定する平成二年一月一六日までは賃貸借契約が終了したと主張して本件土地の明渡しを求め続けていたのであるから、上告人において平成二年一月分までの供託賃料額の相当性を争う余地はない。

3  本件供託金額である月額二〇〇〇円は、従前賃料を下回らず、被上告人内田が主観的に相当と認める額であり、同被上告人は、弁護士と相談の上、借地非訟事件で借地条件変更の一環として賃料も解決が図られるのでその結着を待つこととし、上告人に対しては借地非訟事件の終結まで従前額の供託を続けると回答して月額二〇〇〇円の供託を続け、借地非訟事件における鑑定委員会は借地条件の堅固建物所有目的への変更と変更後の賃料を月額一四万七六〇〇円に改定することを相当としたが、上告人の本件訴訟提起により同被上告人は借地非訟事件の申立てを取り下げた、というのであるから、上告人が国に支払う国有地の賃料の額と上告人所有地の公租公課の合計額が同被上告人の供託額である月額二〇〇〇円(年額二万四〇〇〇円)を超えることを同被上告人が知っていたというだけでは、同被上告人に債務不履行や信頼関係破壊行為があったということはできない。

四  しかしながら、原審の右三の3の判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

1  賃料増額請求につき当事者間に協議が調わず、賃借人が請求額に満たない額を賃料として支払う場合には、賃借人の支払額が、賃貸人において負担すべき目的物の公租公課の額及び所有者に支払うべき目的物の賃料の額の合計額(以下「公租公課等の額」という。)を下回っていても、賃借人がこのことを知らなかったときには、公租公課等の額を下回る額を支払ったという一事をもって債務の本旨に従った履行をしなかったということはできない。しかし、賃借人が自らの支払額が公租公課等の額を下回ることを知っていたときには、賃借人が右の額を主観的に相当と認めていたとしても、特段の事情のない限り、債務の本旨に従った履行をしたということはできない。けだし、借地法一二条二項は、賃料増額の裁判の確定前には適正賃料額が不分明であることから生じる危険から賃借人を免れさせるとともに、裁判確定後には不足額に年一割の利息を付して支払うべきものとして、当事者間の衡平を図った規定であるところ、有償の双務契約である賃貸借契約においては、特段の事情のない限り、公租公課等の額を下回る額が賃料の額として相当でないことは明らかであるから、賃借人が自らの支払額が公租公課等の額を下回ることを知っている場合にまで、その賃料の支払を債務の本旨に従った履行に当たるということはできないからである。

2  本件についてこれを見るに、上告人が被上告人内田に対して賃料を月額一五万円に増額する旨の請求をしたところ、同被上告人は、上告人所有の本件土地一ないし三の公租公課の額と本件土地四及び五について上告人が国に支払う賃料の額との合計額が月額二〇〇〇円(年額二万四〇〇〇円)を超えることを知りながら、月額二〇〇〇円の供託を続けたものであり、借地非訟事件の裁判における賃料の改定と賃料増額請求とは趣旨を異にすることや、本件土地五の所有者である国が本件借地非訟事件の相手方とされていないことからみて、右借地非訟事件の経過を重視することは相当でないことなどを考慮すると、原審の認定した事実だけでは、同被上告人のした右供託が債務の本旨に従ったものに当たるというべき特段の事情があるということはできない。そうすると、同被上告人に賃料債務の不履行はないとした原審の判断及び債務不履行がないことを前提として同被上告人に信頼関係破壊行為があったとはいえないとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。この趣旨をいう論旨は理由があり、原判決中被上告人らに対する土地明渡請求及び被上告人内田に対する平成二年一二月二九日以降月一五万円の割合による金員の支払請求に関する部分は破棄を免れない。そして、右部分については、果たして、同被上告人の供託が債務の本旨に従ったものに当たるというべき特段の事情があるといえるのか否か、また、同被上告人に信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるといえるのか否かについて、更に審理判断する必要があるから、原審に差し戻すこととし、同被上告人に対する予備的請求に関する部分も原審に差し戻すこととする。

五  なお、上告人は、原判決中賃料支払請求に係る部分について、上告理由を記載した書面を提出しない。

よって、民訴法四〇七条一項、三九九条ノ三、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官根岸重治 裁判官大西勝也 裁判官河合伸一 裁判官福田博)

上告人の上告理由

一 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな経験則違反の違法がある。

原判決は、「被控訴人内田が、平成二年二月一日以降供託している賃料額は、従前賃料額を下回るものではなく、被控訴人内田が弁護士と相談の上供託しているものであって被控訴人内田が主観的に相当であると認めていた額であると認められる」との判断をしている。

しかし、右判断は経験則に違反するものである。

原判決は、「被控訴人内田は、平成二年二月一日当時、控訴人が国に対して支払っている国所有地の賃料と控訴人所有地の公租公課の合計額が、少なくとも年額二万四〇〇〇円(被控訴人内田が供託している賃料の一年分)を上回っていることを知っていたと推認することができる」との事実認定をなしている。そもそも、二〇〇〇円の供託額が非常識極まりないものであることは明らかであるが、被上告人は、供託額が、公租公課など上告人が本件土地のために実際に支出している金額の一二分の一以下であることを知っていたというのである。しかも、被上告人が二〇〇〇円の供託を始めたのは昭和五〇年のことであり、被上告人は、当時すでにその額が相当と考えて供託したはずである。その後一五年経ち、その間、土地及び諸物価が大きく値上がりしていることは明らかであり、そうすると、被上告人が、平成二年当時もなお二〇〇〇円の供託額が相当であると思っていたとは到底考えられない。たとえ弁護士に相談をしたとしても、自ら相当でないことを知っている以上、主観的に相当と思って供託したものとはいえない。

しかるに、被上告人は主観的に相当と考えて供託していたものであるとの判断をなした原判決には、判決に影響を及ぼす経験則違背の違法がある。

二 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

原判決は、「控訴人は、平成二年一月一六日判決が確定した前記土地明渡請求訴訟の控訴審において、控訴人が国から賃借している国所有地の一平方メートル当たりの賃料は被控訴人内田が賃料として供託している一平方メートル当たりの金額を大幅に上回る旨主張し、これを裏付ける証拠書類(国との間の国有財産賃貸借契約書等)を提出していること、被控訴人内田は、本件土地の付近等に土地を所有し、その公租公課を負担していることが認められ、この事実によると、被控訴人内田は、平成二年二月一日当時、控訴人が国に対して支払っている国所有地の賃料と控訴人所有地の公租公課の合計額が少なくとも年額二万四〇〇〇円(被控訴人内田が供託している賃料の一年分)を上回っていることを知っていたと推認することができる」との事実認定をなしている。

しかるに、原判決は、「控訴人は、被控訴人内田の供託した平成二年一月分までの賃料が相当でないことや、平成二年二月分以降の賃料供託額が控訴人の負担する公租公課等の金額より低額であるということを控訴人と被控訴人内田間の信頼関係が破壊された理由とすることはできない」との判断をなして上告人の主張を認めなかった。

右原判決は、借地法一二条二項の解釈適用を誤ったもので、最高裁判所判例(平成五年二月一八日第一小法廷判決―平成二年(オ)第一四四四号事件)にも違反するものである。

即ち、借地法一二条二項は、賃料増額につき当事者間に協議が整わないときは、借地人は、その増額を正当とする裁判が確定するまでは、「相当と認むる」賃料を支払っておけばよく、後日裁判において従前支払っていた右賃料が適正賃料に不足していることになったとしても、その不足額について履行遅滞の責任を負うことはなく、不足額に年一割の利息を付して支払わなければならないこととして、当事者間の利害調整を図った規定である。

右規定にいう「相当と認むる」賃料とは、客観的な適正額ではなく、借地人が主観的に相当と認めるものであればよいと解されており、通常は、増額請求を争う借地人は、従前賃料より低額であってはならないが、原則として従前賃料を支払えば足り、増額請求が一部理由があると認めるときでも主観的に相当と認める賃料を支払いあるいは供託してさえおれば、後日確認された適正賃料よりも低額であることを理由に債務不履行の責を負わないと解されている。

しかし、いかなる場合にも右のように解すべきではない。従前賃料が適正賃料に比して極めて低額となっているにも拘らず、賃借人が相当と認める賃料として従前賃料のみを供託をし続ける場合等には、契約解除が認められるべきである。

①借地人自身、内心では正当と考えないで低額賃料を支払い続けるもので、自ら相当と認める賃料の支払いとはいえない。②明らかに客観的に妥当な増額請求を拒む借地人の行為はそれ自体背信行為に該当し、解除原因となりうる。③借地人の判断が客観的な基準に照らし余りにも非合理的な場合には債務の本旨に従った履行の提供とは認められず債務不履行が成立するなどと解すべきである。

前記最高裁判所判決も、「賃借人が公租公課の額を知りながら、これを下回る額を支払い又は供託しているような場合には、その額は著しく不相当であって、これをもって債務の本旨にしたがった履行ということもできないともいえようが」との判断をなしている。

借地人の支払い、又は、供託賃料額が従前賃料額を下回らない場合であっても、これが客観的尺度ともいい得る土地の公租公課を下回り、このことを借地人が知りながら公租公課額より低額を支払い又は供託し続けるような場合は、賃貸人の負担によって借地人が無償で土地を利用しているともいえ、かかる特別の場合には、例外として、相当賃料額の支払い又は供託は債務の本旨に従った履行とは認められない、つまり、債務不履行が成立することを認めているのである。

本件においては、平成二年一月一六日判決が確定した上告人と被上告人内田の間の土地明渡請求訴訟のそもそもの発端は、昭和二六年の賃料増額請求に始まる。以後、当事者間で争いが継続し、賃料の合意は全くなされていない。右判決の確定に至るまで被上告人内田は自らの決めた額の供託を続け、右判決の確定時点では一ケ月二〇〇〇円を供託していたのである。

上告人は、前記訴訟の明渡請求は理由があるものと考えていたので、確定に至るまでは賃料増額請求はしていない。しかし、判決が敗訴で確定したため、同年二月一日からの賃料を一五万円に増額する旨の通知したのである。被上告人内田はこれに対し代理人を通じて増額請求を争うとともに借地非訟事件の終結まで従前賃料の供託を続ける旨の回答をしてきた。上告人は、直ちにこれに対し、借地非訟事件で決定されるものと増額請求は無関係のものである。従前賃料額での供託には異議ある旨の通知をなした。しかるに被上告人内田はこれを無視してその後も二〇〇〇円の供託を続けた。平成二年一二月に上告人が本訴を提起してもなお平成四年六月分まで同額の供託を続けたのである。又、平成四年七月以降は増額はしているものの、その額は一ケ月三万八〇〇〇円に過ぎない。

ところで、一ケ月当りの、(イ)本件土地の公租公課と(ロ)上告人所有地の公租公課と上告人の国への支払い賃料の合計は、それぞれ次のとおりであることは、原判決が認めるところである。

昭和五六年 四月一日現在

(イ) 二三六七円

(ロ) 二万八九五〇円

昭和六一年一〇月一日現在

六八四一円

五万六一二七円

平成 二年 二月一日現在

八二六七円

七万二〇五三円

右より明らかなとおり、被上告人内田は、遅くともすでに昭和五六年四月現在で公租公課にも満たない賃料しか供託していなかったのであり、上告人が増額通知をした平成二年二月一日について考えると公租公課の四分の一の額の供託しかしていないのである。更に、上告人が被上告人内田に貸している土地の一部は上告人が国に賃料を支払って賃借している土地である。上告人には、自己所有地の公租公課と国への支払い賃料の合計額の負担が実際に必要であるから、本件では、最高裁判決が公租、公課というもの中に国への支払い賃料額も加えられるべきである(上告人が土地を借りているのは国であり、賃料は適正なものと考えられる)。そうすると、平成二年二月一日現在の供託額はその三六分の一以下となる。極めて低額で、不当極まりない供託で、到底債務の本旨に従った供託とはいえない。被上告人内田は、かかる供託を二年半もの間続けたのである又、その後平成四年七月以降は三万八〇〇〇円を供託しているが、これも右金額のおよそ二分の一に過ぎないのである。

上告人は、前記土地明渡訴訟の中で、本件土地の公租公課あるいは国への支払い賃料額を明らかにして証拠も提出しており、被上告人がこれを知っていたことは原判決も認めるところである。

そうすると、本件はまさしく、前記最高裁判所判決が「公租公課の額を知りながら、これを下回る額の供託している場合には、その額は著しく不相当であって、これをもって債務の本旨に従った履行ということはできない」という場合に該当すること明らかである。しかるに、原判決はこれと異なる判断をなしており、原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな、法令解釈、適用の誤り、最高裁判決違反の違法がある。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例